今が技術の黎明期。実写VRの第一人者アルファコード水野氏が語るVRの可能性

VR技術を用いた研究開発を手掛けるアルファコードの代表取締役社長CEO兼CTOの水野拓宏氏に、VRの魅力やビジネスとしての可能性についてインタビューしました。本記事の最後には、TechClips読者限定でVR/MR体験の募集についてのお知らせがあります。 90年代に興った第1次VR(Virtual Reality/仮想現実)ブームから20年あまりの時を経て、今VRに熱い視線が注がれている。その契機となったのが、2016年に相次いで製品版がリリースされたVR用HMD(Head Mount Display)の『Oculus Rift』、『HTC Vive』の登場だ。今年10月にも『PlayStationVR』の販売も控えており、この盛り上がりは当面収まりそうもない。 これが一過性の流行でないことは、米投資銀行のゴールドマン・サックスが2016年1月に公表したレポートにも表れている。同社は、VR・AR機器の市場規模は2025年に最大で1100億ドル程度になるとし、連動するソフトウェア市場も720億ドル規模に到達するという予測を立てているからだ。 とはいえ、現段階において、VRとAR(Augmented Reality/拡張現実感)、また『Microsoft HoloLens』の登場で、にわかに注目を集め始めたMR(Mixed Reality/複合現実感)との違いを明確に説明出来る人は少ないだろう。 VRは何を可能にし、どんな未来を切り拓くのか。今回は、VR技術を用いた研究開発を手掛けるアルファコードの代表取締役社長CEO兼CTOの水野拓宏氏に、VRの魅力やビジネスとしての可能性などについて聞いた。

株式会社アルファコード
代表取締役社長 CEO兼CTO
水野拓宏氏

AR、VR、MRでは「壁」の越え方が違う

「技術の概念を捉えるのはとても難しいものです。とくにAR、VR、MRは、見た目がよく似ているので、混乱や誤解が生まれやすいのでしょう。でも表面的な部分に惑わされず、技術の本質に立ち返って考えると違いがよくわかります」。水野氏はそう話すと、おもむろに立ち上がり、背後のホワイトボードに向かって次のような図を描き始めた。

「一言で申し上げると、それぞれの違いは、実空間と情報空間の間にある『越えがたい壁』をいかに越えるか、という方法論の違いなんだと思います。実空間のなかに、あたかもデジタル情報が存在するかのように付与するのとがARであるなら、VRはそれとは逆に情報空間に入り込み、現実に近い体験をもたらしてくれる技術。そしてMRは、実空間、情報空間の双方が重なりあい、その間を区別なく行き来するようなイメージです」

実空間と関わりを前提とするのがARとMRであり、実空間から切り離される体験をもたらすのがVRというわけだ。

「ですからMRはARの『拡張版』と考えてもいいでしょう。そういう観点からすると、VRはこのふたつとはまったく別物の技術だと考えられます」

VRのどこに可能性を感じたのか?

水野氏がVRの研究開発に関心を持ったのは、2014年6月にロサンゼルスで開催された世界最大のゲーム展示会『E3』(Electronic Entertainment Expo)でのことだったという。そのとき会場では、当時『Project Morpheus』と呼ばれていたPlayStation VRのデモンストレーションが行われていた。

「40代以上の技術者であればわかると思いますが、僕らの世代はこれまで何度もVRに期待しては、その都度がっかりさせられてきました。あのときも、また裏切られるんじゃないか、という気持ちも少なからずあったのは確かです。斜に構えながらデモに参加したのを覚えています」

そのとき水野氏が体験したのが『The Deep』というVRコンテンツだった。プレイヤーが海中に吊された防護柵のなかに入り、攻撃してくるホオジロザメと対峙するという内容だ。期待半分で会場に臨んだ水野氏の予想は、正しくもあり、間違ってもいた。

Watch Gameplay of Project Morpheus’ The Deep – YouTube

「大型のサメが攻撃してきて、自分を守ってくれているはずの柵がどんどん壊われていきます。確かに臨場感はありました。でも、サメに襲われる演出はコンテンツの趣旨を考えれば想定の範囲内でしたし、当時のデモ機はヘッドトラッキングスピードが遅く映像の解像度も低かった。ですから震えるほどの恐怖感を覚える、とまではいきませんでしたね」

しかし、ふと自分の足下に視線を向けたとき、水野氏の感覚に異変が起こる。

「足下に深く暗い海が広がっているのが見えて、身がすくんでしまったんです。高い所が苦手なのは確かですが、それはあくまで現実世界でのこと。VRを通じて、隠された恐怖心が引きずり出されるとは思ってもみないことでした。その一方で、ここまでリアルな体験が出来るなら、今までとは違ったコンテンツが作れるかも知れないとも感じたんです」

試行錯誤の末、実写VRの可能性に気づく

水野氏はアメリカから帰国すると、早速VRコンテンツ開発に着手する。4カ月後に予定されていた『スマートフォン&モバイルEXPO』に出展するためだ。

「そのとき出品したのが、PCを操作し索敵を担当するユーザと、その指示を受け攻撃を行うHMDユーザが、互いに協力してミッションを達成する非対称型のアクションゲームです。多くの皆さんにプレイしていただいたのですが、ゲームとしての面白さだけでは、商用化が難しいことに気づかされました」

ビジネスとして成立させるには、コンセプトのわかりやすさや、収益性も大事にしなければならない。そこで水野氏は、改めて「VRとは何か」という基本に立ち返り、コンテンツのあり方を考え直すことにしたのだという。

「あるお客さまに『映像を使ったVRなら、もっと現実に近い体験が出来るのか?』と問われ、関連する学術論文を読みあさったことがありました。するとVRが、避難訓練や恐怖症の克服治療に非常に良い成果をもたらしたという報告がいくつも見つかったんです。もしVRでの経験が現実世界に良い変化をもたらすのであれば、継続的なビジネスが成り立つのではないかと思いました」

新たな次元を生み出せるのがVRの魅力

そこで水野氏が着目したのが、ノンゲーム領域だった。

「実際に起きていることを映像で伝えるメディアはすでに存在しています。しかし四角い画面に収めるためには、編集によって多くの情報をそぎ落とさねばなりません。しかしVRであれば空間と時間を丸ごと捉えることが出来る。より多くの情報を正確に伝えることが可能になります。それでVRを報道や観光、教育に活用しようと思い立ちました」

水野氏のチームがコンテンツ制作に関わった事例としては、5分49秒で1泊2日の高知旅行が体験出来る『ぐるっと高知家バーチャルツアー』がある。夏の一大イベントである『よさこい祭り』や、桂浜、はりまや橋といった観光スポット、高知県の酒席文化『おきゃく』がVRで体験出来るというものだ。

ぐるっと高知家バーチャルツアー – YouTube

スマートフォンからご覧の方はこちら
https://youtu.be/3_zz5lNepDY

「いかに人の役に立つか。それがないと単に面白いね、で終わってしまいます。目に見える形で人の役に立てば、お金を出してみようという人も増えるはずです。現在はVRに特化した撮影、編集技術を持っている外注先がないため、われわれ自身が試行錯誤しながらコンテンツを制作するほかないのですが、いずれは蓄積したノウハウをもとに、誰でも実写VRコンテンツが作れるような制作環境を提供出来ればと考えています」

事実、不動産の内見やオーダーメイド製品の事前チェック、リハビリテーション、インタラクティブ・アート、テロ対策など、報道、観光、教育以外にも、実写VRを活用が期待されている分野は少なくない。

「VRは技術者が、次元を生み出せる数少ない技術です。以前、秋葉原の中央通りをドライブするVRコンテンツを制作したことがあるのですが、撮影当時、運転しながら考えていたのは、路肩を走る自転車にぶつからないように注意していたという記憶でした。しかし何度かVRでこの映像を見るうち、対向車線に知りあいが関わっているコンテンツを宣伝するトラックが走っていたことを発見したり、また別の機会には、歩道を知人が歩いていることに気づいたりしたことがありました。つまりVRを使うとひとつの現実を重層的に感じることが出来るんです。これはVRにしか出来ないユニークな体験といえるのではないでしょうか。技術者はアイデアひとつで新しい次元を作ることが出来る。今、VRほど面白い領域はないと思います」

しかし、言葉をいくら積み上げてその魅力を語っても、体験に勝るものではないはずだ。水野氏が代表を務めるアルファコードには、専用のVRルームがある。VRコンテンツの開発に興味がある技術者に、ぜひ最先端のVR体験をしてほしい水野氏はいう。

「私はこれまで、技術者として何十年も活動していますが、技術の黎明期に立ち会えた機会は数えるほどしかありませんでした。今日のVRは、まさに船の舳先に立ち、まだ見ぬ大陸を探しているという状況です。コンテンツを作れば作るほど、多くの開発者にVRコンテンツ作りに参加してほしいという思いが募ってきます。もしこの世界に興味があるなら、弊社でVRの魅力を体感してみてください。新たな発見がきっとあるはずです」

TechClips読者限定VR/MR体験募集のお知らせ

実写VRの第一人者、水野さんと一緒にVR/MRを体験してみませんか?

2016年10月19日(水)15:00~17:00、2016年10月27日(木)15:00~17:00の2日間でアルファコードのVRルームをTechClips読者の技術者の皆さんに解放します。この機会にVR/MR体験をしてみたい方は、2016年9月20日(火)までに、氏名、年齢、職業、連絡先、第一希望日を明記の上、下記の「VR/MR体験のお申し込みはこちら」の下に記載されたURLをクリック後に表示されるページからお申し込みください。応募多数の場合は、抽選を行い各日程で5名様(合計10名様)をご招待します。また、ご応募の結果につきましては10月1日(土)までに、ご招待のメールをもってかえさせて頂きます。

体験可能な機材/『Oculus Rift』『HTC Vive』
体験可能なソフトウェア/『VRider』『Tilt Brush』『Job Simulator』

応募条件/高校生以上

▼VR/MR体験のお申し込みはこちらから
※ 応募は締め切りました