「面白いものを届けたい!」〜Snapmartを開発した江藤美帆(えとみほ)さんに見るサービス開発者に必要なこと〜

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TechCrunchやCNETなどのメディアで取り上げられ、リリースから数日で1万ダウンロードを突破した『Snapmart』(スナップマート)。広告やウェブメディアのアイキャッチに使える画像を探している企業と、スマホで撮った写真をフリマ感覚で売ってみたいユーザーの心を掴み、現在も着実に利用者を増やしている。 このサービスの企画者であり、開発者でもある江藤美帆さんは、ネット界隈では『えとみほ』さんと呼ばれ、多彩なキャリアを持つ人物としても知られている。今回は2016年9月に設立されたスナップマート株式会社の代表に就任したばかりの『えとみほ』さんに登場いただき、自身の仕事観やSnapmartに賭ける思いなどについて語ってもらった。

自分が良いと思ったことは紹介したいという編集者マインド

「Snapmartを開発するまで、本を書いたり、さまざまなジャンルのビジネスやサービス、メディアの立ち上げに関わっていましたが、仕事の原動力になっていたのは、自分が面白いと思えること、役に立つと思うことを、多くの人に知ってもらいたいという欲求でした。これは100%裏方志向ですね。切り取るものがコンテンツか商品かの違いはあれど、『編集したい』という欲求が強いのかも知れません」

えとみほさんがITの世界で仕事をするようになったのは、日本の大学を中退し、アメリカの大学へ留学後、インターンとして入社したIT企業でデータベースソフトの日本語ローカライズ担当になった頃だ。

「日本の翻訳エージェンシーに協力してもらって、ソフトウェアの日本語化に取り組んでいました。仕事は楽しかったのですが、プライベートな事情で日本に帰国することになり、就職先を探しました。ただ、当時は留学帰りの人は使いづらいと敬遠されて。やむを得ず、バイト的に請け負っていたTechライターの仕事を本業にすることになったんです」

当時はWindows95が発売されたばかりで世はITバブル前夜。その後、数年にわたって彼女が執筆・編集したソフトウェア解説書は飛ぶように売れたという。

「ソフトウェアのバージョンが上がるたびに書籍の内容を書き換えるのですが、そのたびに初版印税として大きなお金が入ってきました。20代女性としてはかなり恵まれていたと思います。でも、仕事をはじめて5〜6年経ったころ、ちょっと鬱っぽくなってしまって。この間、担当編集者と家族以外には誰とも会話しないで朝から晩まで仕事だけをしているような生活を送っていたので、当然といえば当然かもしれません。お医者さんからもしばらく休むように言われたので、しばらく仕事を断ってぶらぶらしていました。といっても、すぐに暇になってしまって、ちょこちょこいろんな小商いを立ち上げたりはしていたのですが」

好きだった北欧家具を個人輸入しヤフオクで転売してみたり、喫茶店で仕事をするのが煩わしくなり、今でいうコワーキングスペースを開いたこともあった。やるか、やらないかの判断基準は「自分が当事者として必要性を感じるかどうか」だったという。

「なかでも一番心血を注いだビジネスは海外の禁煙メソッドのライセンス販売でした。たまたま渡航先で見つけたコンテンツだったのですが、当時としてはあまりにも画期的なメソッドだったので、すぐに日本での独占的販売権獲得に動きました」

経営者には向かないと思ってたが会社員はもっと向いてない

粘り強い交渉の末権利を獲得したえとみほさんは、国内で事業を展開するため、会社を起こし社員を雇い入れる。しかし会社組織で働いた経験が乏しいこともあり、戸惑う場面が少なくなかったという。

「好きなことであれば、お金も時間も関係なくのめり込むもの。仕事ってそういうもんだと思っていたので、社員にも無意識のうちに自分と同じような働き方を求めてしまっていました。でもそれが『当たり前』なことではないことに気付いたのは、事業を人に譲り、会社勤めをはじめてからのことでしたね」

前の会社は社員の入れ替わりも激しく、辞めていく社員から「社長は私たちの気持ちをまったく理解していない」と言われたこともあった。

「チームで働いた経験がほとんどなかったので、任せたはずのことについ口出ししちゃったりとか、『自分がやったほうが早い』と思って勝手に部下の仕事を奪ってしまったりして。ほんとに、ダメな上司の典型でしたね。あのときの社員には土下座して謝りたいです(笑)」

経営者から会社員に立場を変えたことによって、他者との関わり方だけでなく、面白い!と思えることには寝食を忘れて取り組んでしまいたくなる自分の性分にも気付いたという。

「最初の起業で、自分は社長向きではないと思いましたが、ベンチャーや上場企業、日本企業や外資系企業でも働いてきましたが、自分はむしろ会社員にも向いていないことがよくわかりました(笑)。幸い、自由に仕事を任せてもらう機会が多かったので続けてこられましたが、そうでなければすぐに辞めてしまっていたでしょうね」

今は無理に自分を変える必要はないし、自分の判断基準で人を変えようとするべきではないと思うようになったとえとみほさんはいう。

「もう経営者はこりごりと思っていたのに、巡り巡ってまた会社経営に携わることになりましたが、経営者がやるべきことは、社員を信じて任せられるような環境を作ることにあると思うようになりました。組織が大きくなる上でルールが増えるのは致し方ない部分もあります。でもなるべくなら、つまらない決まりごとを作らず、すべての人が自発的に動けるようにしていったほうが『いい仕事』ができるんじゃないかと思っています」

誰もがクリエイターになれる状況を作りたい

Snapmartはリリース直後からユーザーの人気を集めた一方、その直後に出資元とのすれ違いが表面化し話題になったことがあった。しかしえとみほさんは、もうわだかまりは消えたと話す。

「あのときは各方面にご心配をおかけしましたが、結果的に10年もの歳月を費やしフォトストック事業を成熟させてきたピクスタという後ろ盾を得ることができました。ピクスタ代表の古俣さんには、予算や裁量の面でかなり配慮いただいていますし、私たちはSnapmartのグロースに集中できる環境を手に入れることができた。個人的にはいい着地だったのではないかと思っています」

ユーザーに支持されるサービスを世に送り出した以上、既知の不備を改善しユーザーの期待に応えるべきだという義務感と、自分を支えてくれている仲間たちへの責任感が、困難な状況を乗り越える助けになったのだろう。一時は、Snapmartから手を引くことも考えたというえとみほさんだが、今はもう悩むことはない。

「導線の見直しや機能の拡張、コードのリファクタリングを含め、当面はサービスとしての完成度を上げていかなければならないので、悩んでいるヒマはないというのが正直なところです(笑)。その先の未来はまだわかりませんが、この数カ月で、素人が撮ったユニークな写真を必要としているウェブメディアや広告主がいることがわかってきました。Snapmartを通じて、世界中の誰もがスマホひとつで気軽にクリエイターになれる。これからそんな状況を作っていけたらと思います」

えとみほさんに見る仕事への情熱

この取材中、えとみほさんは情熱やモチベーションについては、あまり意識したことはないと話していたが、それでも仕事について話す姿に「情熱」を感じずにはいられなかった。

情熱やモチベーションをことさら意識しないからこそ、こだわりを持たず新しい仕事に切り込んでいけるのかも知れない。それは彼女自身が認めると認めざるに関わらず、たぐいまれな才能であることは間違いないだろう。

何かを世に生み出す時は、心が折れるようなことな状況に見舞われることがある。それはえとみほさんも変わらない。しかし、常人であれば投げ出したり、諦めたくなるような状況に陥っても、それをも乗り越え「これを世に届けたい」という強い気持ちを持ち続けられれば打開策は見つかる。今回の取材を通じて信念の強さこそ、モノ作りに欠かせない素養なのだと感じた。

えとみほさんプロフィール

スナップマート株式会社
代表取締役 CEO 江藤美帆さん
米国留学中、IT企業でソフトウェアの日本語ローカライズに携わった後、日本でフリーランスのTechライターとなる。インターネット関連書籍21冊、計50万部を売り上げたが、2004年、英アレン・カーズ・イージーウェイ社の日本における独占的販売権を獲得し起業。2010年に事業譲渡。以後VRベンチャーや大手外資IT企業などを経て、2014年、ネット広告代理店のオプトに転じる。ソーシャルメディアコンサルタントやウェブメディア『kakeru』の初代編集長を務めた後、2016年6月出向先のオプトインキュベートで『Snapmart』をリリース。2016年9月、フォトストック事業を手掛けるピクスタのもとで、スナップマート株式会社を起業し現職に就任。現在に至る。