1年未満で2,000社に導入のSmartHR!労務を変えた株式会社KUFUが語るB2Bの開発経緯

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社会保険や雇用保険の申請手続きを自動化する『SmartHR』は、いまもっとも注目を集めているクラウド型のB2B(法人向け)サービスのひとつだ。KUFUはなぜ労務のクラウドサービスに参入し、2,000社を超える企業から支持を得ることができたのか。『SmartHR』を提供しているKUFUの開発陣に話を聞いた。

企業、社会保険労務士双方にとってメリットのあるサービス『SmartHR』

企業の労務担当者は、手書きで申請書類を作成し、申請内容によっては、完成した申請書類を携え、社会保険事務所や年金事務所、ハローワークなど、複数の役所を何度も訪ねることを強いられている。窓口で待たされることもしばしばで、時間のロスもばかにならない。

こうした非効率な労務管理の実態を改善するために開発されたのが、KUFUが手掛けるクラウド労務ソフト『SmartHR』だ。
この『SmartHR』を使えば、目的の手続きを選択し、ガイドに従って従業員情報を入力するだけで、簡単に各種申請書類を完成させることができる。しかも電子申請に対応済みの手続きであれば、書類作成から申請までの一連の作業をクラウド上で完結させることが可能だ。

『SmartHR』の開発と提供を手掛けるKUFUの最高開発責任者であり、創業メンバーでもある内藤研介氏は、同サービスを次のように説明する。

「『SmartHR』は、煩雑で専門的な知識を問われる労務業務の効率化を目指して開発した月額定額制のクラウドサービスです。2015年11月の正式リリースからまだ1年足らずですが、数名のスタートアップから数百名規模の中堅企業を中心に、2,000社を超えるお客にご利用いただいています」

▲ 株式会社KUFU(クフ) 取締役副社長 最高開発責任者(CDO) 内藤 研介氏

用途はもちろん企業の労務担当者の負担低減だが、最近は、社会保険労務士とのやり取りを効率化するために利用する企業も増えているという。

「そのため、2016年9月からは社会保険労務士のみなさんが複数の顧問先を管理するための『SmartHR for Adviser』という機能の提供も始めました。ともすると私たちのサービスは社労士の業務を奪うように見えるかもしれませんが、企業、社労士双方にとってメリットのあるサービスを提供することで、労務分野の効率化を進めていくつもりです」

必要とされるものを作るための100を越えるヒアリング

電子化に遅れをとっていた労務にテクノロジーの光を当て、ユーザ企業の心を掴んだ彼らだが、2013年から『SmartHR』が完成する2015年までの2年間は、生み出す苦しみを経験している。

「開発資金を得るために行っていた受託開発に時間をとられ、なかなか自社サービスの開発に集中できない状況が続いていました。状況が変わったのはスタートアップ支援プログラムのOpen Network Labに参加することになり、2度目のピボット(路線変更)を決めた後のことです」

過去2回出したサービスがうまくいかず、新たなサービスを模索する必要に迫られていた彼らが行ったのは、徹底したヒアリングだった。「作りたいものを作る」から「必要とされるものを作る」ためには、作り手の我を捨てて、解決すべき課題を見つけることから始めなければならないと考えたからだ。

「友人や知人の経営者の声を聞いて、新しいサービスにつながるネタを集めて回りました。ヒアリングした回数は、100を超えていると思います。そのなかで特に多かったのが、労務についての課題だったんです。それで、この分野の改善につながるサービスを作れるのではないかと検討を始めることになりました」

とはいえ、労務に熟知しているメンバーはいない。まったくの手探り状態からのスタートだった。

「労務関係の専門書を大量に買い込み、自分たちの理解が正しいのか、実務に沿ったものなのかをひとつひとつ詰め、プログラムに反映していきました。自分たちだけで解消できない問題に直面したら、年金事務所に電話をしたり、知り合いの社会保険労務士に相談したりしながら、当たりをつけていったんです」

▲ 株式会社KUFUのオフィスで見つけた参考書や六法全書

一見、門外漢の無謀な挑戦にも見えるが、新たな知見をキャッチアップする力と技術力は、それを補って余りあるものだった。2015年2月頃から本格的に開発に着手した彼らは、約5カ月でデモ版を完成させ、11月には正式版のリリースにこぎ着けた。

この間KUFUは、起死回生のために参加したOpen Network LabのDemo Dayは、Best Team Award(最優秀賞)を獲得。TechCrunch Tokyo 2015 のスタートアップバトルでは、最優秀賞、IBM BlueHub賞、ぐるなび賞をトリプル受賞している。彼らは、外部からの評価を糧に、まったくのゼロからサービスを育てていったのだ。

未知の領域への挑戦だからこそやりがいにつながる

現在同社のCTOを勤め、開発チームを率いている佐藤大資氏は、入社前までサイバーエージェントでコミュニティサービスの開発を手掛けるリードエンジニアだった。彼は、個人ユーザ向けのサービス開発に長く携わるなかで、少しずつ物足りなさを感じ始めていたという。

「特にB2C(個人ユーザ向け)サービスだから、というわけでもないのでしょうが、当時私が開発を担当していたサービスには、『こういう問題が出たらこう対処する』みたいな、確立された『定石』みたいなものがあって、サービスの見た目ほど、開発の中身は代わり映えしませんでした。そんな時、知り合いの伝手でKUFUのメンバーに声をかけられたんです」

▲ 株式会社KUFU(クフ) 取締役 最高技術責任者(CTO)佐藤 大資(だいすけ)氏

労務に関する知識はなかったが、佐藤氏は「労務」という未知の領域へ踏み込む開発に興味を惹かれたという。
「電子化が遅れている分野に取り組むわけですから、社会的意義もありますし、ビジネス的にも面白いと思いました。それで思い切って挑戦することにしたんです」

現在すでに、日常的に行われる申請手続きの7割程度をカバーしている『SmartHR』だが、申請書類のなかには複写式の書類もあれば、健康保険組合や自治体によって書式が違うこともあり、汎用的に作れない部分も多い。それでも、その難しさがやりがいにつながっていると佐藤氏は考えている。

「現在、内藤と私を含めて5人のメンバーで開発していますが、これから『SmartHR』の機能の拡大に加え、APIを活用した他社サービスや社内システムとの連携も進めていくため、まだまだエンジニアが必要です。『SmartHR』の存在意義やビジネスの面白さ、新しい領域を開拓したいと思っていただけるなら、労務の知識やB2B開発の経験の有無は問いません」

自律的な開発体制を築くための組織づくり

開発手法にはスクラム採用し、カスタマーサクセスから上がってくる機能要請を順次タスク化。週次でスプリントを回しているという。フレームワークはRuby on Railsだ。

採用に際しては、エンジニアとしての価値観が共有できるかを重要視しているという。

▲ 株式会社KUFU Webページ、MISSIONより (http://kufuinc.com/mission)

「スクラム開発を取り入れたのは、自律的な開発体制を築くため。価値観やゴールの共有をとても重要視しているのは、迷いのない状態で開発していきたいからです。これからもユーザの不便を解消するために、カスタマーサクセスを重要視しながら、開発を進めていこうと思っています」(佐藤氏)

2015年8月には、WiL Fund I, LP、BEENEXT PTE.LTD、500 Startups Japanなどを主たる引受先とする総額5億円の第三者割当増資を実施。さらなる飛躍に向けた土壌も整った。

「私自身、最初から労務に興味があったわけではなく『SmartHR』の開発を通じて、企業の労務担当者や、社会保険労務士のみなさんの働き方をよりよく変えることに面白さを感じて入社しました。一般に馴染みのない業務領域ですから、わからないことだらけだと思います。もし少しでも興味を感じてもらえるなら、定期的に開催しているビアバッシュに参加してみてください。この仕事の楽しさややりがいをお話しできると思いますよ」(佐藤氏)

まとめ

作りたいものを作るのではなく、徹底したヒアリングで、必要とされるものを生み出し、成功の糸口を掴んだKUFU。今後は、『SmartHR』でカバーできる業務を増やしたり、他社サービスとの連携を深めたりしながら、使い勝手を上げる一方、加盟する社会保険システム連絡協議会を通じて、電子申請の利用率を上げるために何ができるかを問いかけていくという。ユーザーのために最善を尽くすという意味では、BもCも大きな違いはないようだ。

B2Bサービスを作り出す過程では、ビジネスの日常を学び、そのニーズを吸収していくという作業で自分の力をブラッシュアップしていくことができる。それこそがB2Bの面白さであり、開発していくことの意義を見出していくのだろう。

株式会社KUFU

テクノロジーとKUFUで社会構造をハックする
代表取締役:宮田 昇始
企業URL :http://kufuinc.com/
設立:2013年1月23日
所在地:東京都港区麻布台1-4-3 エグゼクティブタワー麻布台601

クラウド労務ソフト「SmartHR」
https://smarthr.jp/