さくらのIoT Platformでなにができるの?IoT事業参入のハードルを下げるさくらインターネットの戦略

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インターネットに接続されたデバイスから集められた膨大なデータを、AI(人工知能)を駆使して解析するビジネスが注目を集めている。しかし、コスト高や技術者不足、セキュリティへの不安など、多くの企業にとっていまだ敷居が高いのが現状だ。さくらインターネットは、こうした状況を打開すべく「さくらのIoT Platform β」と名付けたβ版サービスを2016年10月に発表し、現在提供中である。データセンター事業で知られるさくらインターネットが、なぜIoT事業に参入したのか。サービス責任者を務める山口亮介氏に話を聞いた。

さくらのIoT Platform βとは

さくらインターネットが現在提供している「さくらのIoT Platform β」は、同社が開発した『さくらの通信モジュール』と同社のデータセンターを安全に接続するために開発されたサービスだ。

その一番の特徴はセキュリティ対策の徹底にある。

IoTデバイスとインターネットを直接つながず、閉域網を通じてデータセンターと接続するようにしたのだ。その理由をサービスの責任者である山口亮介氏は次のように説明する。

「つい先日、監視カメラを使ったDDoS攻撃が話題になりましたが、もしこれが監視カメラでなく、人の身近で活動するロボットだったとしたらどうでしょう。誤作動を起こして、けが人が出たかも知れません。いまはそれほど現実的な話ではないかも知れませんが、今後IoTの活用が爆発的に増えれば、そうした懸念が現実のものになる可能性があります。そこでわれわれは、外部からの攻撃に晒される危険を極力排除するため、インターネットには直接つなぐのではなく、閉域網を介してサービスと接続するプラットフォームを構築したのです」

同社がIoTプラットフォーム事業に取り組むべき理由はほかにもある。インフラのプロとして、簡便性と経済性を兼ね備えたサービスを展開できる能力を持っているからだ。

「IoTデータを活用したサービスを構築するためには、さまざまな関門を越えなければなりません。とくに難しいのが、組み込み、通信、ネットワーク、DB、ミドルウェア、APIなど、異なる技術領域を十分に理解し、ユーザー自らがこれらの技術の間を取り持つ開発を行わなければならない点です。それだけではありません。Raspberry PiやArduinoに接続できる通信モジュールは3万円近くします。さらに運用にあたっては、別途通信費も必要になるので、いざこの分野に参入するとなったら、それなりに大きな出費を覚悟しなければなりませんでした。こうした課題の数々が、IoT製品を開発する上での障害となっていたんです」

これらの課題を同時に解消できるのが『さくらのIoT Platform』だと山口氏は力説する。



「時折、『IoT専用のMVNOサービスなのですか?』といった質問を受けたり、『通信モジュールだけ売ってほしい』というご要望をいただいたりすることがあります。しかし『さくらのIoT Platform』は、通信モジュールとプラットフォームを統合したサービスです。通信モジュールからSIMを抜き取って別のデバイスに差しても、逆に通信モジュールに別のSIMを差しても機能しませんが、そのぶんユーザーは、セキュリティ対策に気を配ったり、未知の開発領域に踏み込んだりする必要がなく、気軽にサービスを使っていただけるようになっています」

つまり『さくらのIoT Platform』は、デバイスやネットワーク側で施すべきセキュリティ対策や機能のつなぎ込みなど、それまでユーザーの手に委ねられていた設定や開発の手間がを不要にし、ユーザーが本来取り組むべき課題に集中できるよう設計されたパッケージサービスなのだ。

「われわれの望みはIoTの活用を進めることにあります。これを実現するためには、まず貴重なデータをクラウド上にアップしていただけるようにしなければなりません。そこでわれわれは、その入り口となる安価な通信モジュールを含む、セキュアなプラットフォームを提供することで、その目的を果たそうとしているわけです」

しかし彼らが提供するのは、あくまでもデータの通信から外部サービスとの連携までの「足回りの部分」。データ分析や活用については他社との協業によって進めていこうと考えている。

「データ連携のためのAPIまでは用意しますが、そこから先は『自由に外部サービスを利用してデータ活用を進めてください』というのが、われわれのスタンスです。すでに、『AWS IoT』や『IBM Bluemix』、『Microsft Azure IoT Suite』など、複数のパートナーと提携を進めています。今後も多様なIoTプラットフォーム事業者と協業しながら、IoTビジネスの本格的な普及に尽力していきたいと考えています」

プラットフォーム単体で収益にはあまり固執しない

現在『さくらのIoT Platform』は、2016年度中の正式サービスの開始に向けてβ版を提供している段階だが、すでにさまざまな分野で利用がはじまっている。

熊本県天草市で行われたスポーツイベント『天草Xアスロン』では、パラグライダーの飛行状況をリアルタイムでWeb表示する際の通信インフラとして採用された。

またビジネス分野では、水田の水量をスマートフォンで遠隔管理する『Paditch』(パディッチ)の株式会社笑農和、シェアリングキーとして利用できるスマートロックの『tsumug』(ツムグ)の株式会社tsumugでも『さくらのIoT Platform』を活用しているという。

山口氏は正式サービスリリース後も『さくらのIoT Platform』単体で収益にはあまり固執せず、できる限り手頃な料金でサービス提供を行っていきたいと考えているという。これからIoTデータの流通量が飛躍的に増えれば、自ずとインフラ関連サービスの需要が伸びると踏んでいるからだ。

「βサービス期間中は『さくらの通信モジュール』の価格を2年分の通信料を含め、半額で提供していますが、他社の従来品と比べても1/6以下という破格の安さです。正式サービスのリリース後は、データ保管に関しては、誰でも自由に使える場合は無料にするなど、ご利用いただきやすい料金体系にするつもりでいます」

将来的にはデータエクスチェンジ事業も

当面は、モノ作りエンジニアやWebエンジニアが、互いの専門領域に集中しながら、協力してIoTを使ったビジネスを構築できる環境を整えることが目標だと山口氏はいう。だがその先にはもっと大きな目標がある。

「モノ作りエンジニアがTCP/IPを、WebエンジニアはSPI通信を理解しなくてもよりよいサービスが開発できるよう、『さくらのIoT Platform』をある種の『プロトコル変換器』のように使っていただくことが当面の目標です。中長期的には、企業が独自に収集した匿名データを売買できるような、データエクスチェンジ事業にも取り組めたら面白いのではないかと考えています」

膨大なデータを蓄積し活用することで、一見関連のなさそうな事象が深い相関で結ばれることがわかれば、よりよい世界が作れると山口氏は信じているのだ。

「『風が吹けば桶屋が儲かる』ということわざがありますが、どんな風が吹けば、どんな桶が売れるかがもしわかったら、世の中はもっと面白くなるはずです。そのためには、まずわれわれの手で、データが集まりやすいオープンなプラットフォームを作らなければなりません。まずは正式版のリリースに向けて、サービスの精度を上げていくところからはじめていくつもりです」

一説には、今後20年で1兆個を超えるデバイスがネットワークにつながるという予測もあるほど、IoTには大きなビジネスチャンスが拡がっている。いまこの段階から、IoTに特化したインフラビジネスを手掛ける意味は大きいはずだ。野心的な価格設定によってその先陣を切ったさくらインターネット。IoT市場の今後を占う意味でも、これからも彼らの動向に注目していきたい。

さくらインターネット株式会社

新しい社会のインフラを支えながら、最先端のサービスを構築していく。 
代表取締役社長:田中 邦裕
設立:1999年8月17日
本社:大阪府大阪市中央区南本町1丁目8番14号
https://www.sakura.ad.jp/

さくらのIoT Platform
https://iot.sakura.ad.jp/